打楽🐷ぶ〜ろぐ

打楽器愛好者、曲淵俊介の身に日々起きる、打楽器に関する小言

砂紋&砂の書

以前記事にした、PHONIX Marimba Orchestra Ⅶの楽曲を思い出しながら。

 

非常に美しく、マリンバ的でありながらも、新しい響きが耳に抜けていく、2曲の砂シリーズ、「砂紋(作:奥定美和)」と、「砂の書(作:木下牧子)」。

シリーズと言っても、たまたま演奏会の演目が一緒になってしまっただけで(今回は過去の委嘱作品オンパレードだったから)、作曲者も作曲年も違うし、関連性ももちろんない(じゃあシリーズって言うなよ🤐)。

 

ただ、砂という言葉を使用する中で2人の作曲家がこうも違うイメージを持っているのかとあらためて感じたので、合わせて記事にした。

 

・「砂紋」/奥定美和

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この曲はマリンバ、グロッケン、ヴィブラフォン、チャイムの編成で書かれている。

冒頭のように静寂の中から、そよ風のように弱音で始まるマリンバ作品は比較的多い(現代音楽の中では)と思われるが、この人数で重なるとかなり重厚に響く。

打楽器は特性上、叩いている間しか音が鳴らないので、それをロングトーンのように表現するために、連打して音を鳴らす奏法をトレモロという(よく耳にするのは「今日の料理」のテーマか!?)。静かな音楽であればあるほど、トコトコトコトコという打音がノイズになってしまうので、その音板が一番響くマレット(バチ)で、且つ一番音がつながる速度で演奏しなければならないのだ(大変!)。

それにしても奥定さんの作品は和声がとても美しい。それぞれのパートが混ざり合っても濁ることがなく、とてもピュアな響きが生まれる。

 

中間部、グロッケンとヴィブラフォンが参戦をして、それぞれの細かいパッセージが砂が舞い上がる様子を演出する。

プログラムノートによると砂紋とは、「波や風によって、海底の砂や砂丘の表面などに生ずる波上の起伏(奥定美和)」だそう。まさに目をつぶると脳内でそんなシーンが現れる作品だ。

この曲はマザーアースから出版されている。マリンバが6台必要なので中々演奏は難しいかもしれないが。

onlineshop.mother-earth-publishing.com

 

砂の書木下牧子

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この作品は、砂紋と同じくp.で静かに始まるが、こちらは対照的に速いパッセージでシビアだ。しかもそのまま地獄のユニゾン大会(同じフレーズを複数人で演奏する)へと発展する。これが非常に難しい!高音のパートも、低音のパートも関係なく選手になるので(老若男女混合の二人三脚みたいな感じ)、サウンドの合わないマレットと、音域で対応しなくてはならない。。

 

和声的にも非常に複雑で、この曲に関して思い出すのが、個人練習をしていて自分のパートが超絶難曲な上に、あまりにも難解で、「このワケワカランな曲はなんなんだ~!(木下先生ごめんなさい)」と発狂していたこと。

リハーサル初日になってゲッソリとした顔で参加したのだが、合わせた瞬間に、ジグソーパズルのピースが揃ったように難解な部分が解決し、名作であることを実感したのを覚えている。今では大好きなマリンバ作品の一つだ。

ちなみにプログラムノートには「“砂”という言葉に、茫然としたはじまりも終わりもない時の流れの意味を込めています。(木下牧子)」とある。

同じ1文字の言葉から始まる2作品の聴き比べの中で、音楽の奥深さを感じる。

 

 

素晴らしい作曲家の作品にふれた時、多くの場合で感じることは、どんなに難しいフレーズやアンサンブルでも必ずギリギリのラインで演奏ができるところだ。明らかに物理的に無理な音型がないことや(あえて無理を強いるスタイルの作曲家はいるけど!)、各パートのバランスに凹凸がないので、書かれてある通りに演奏すれば、既に音楽として成立してしまうからかもしれない。要するにその楽器を熟知しているということだ。

それこそオーケストラを描く大作曲家は全楽器を知り尽くしている、ということなのか・・・。

僕の頭脳では、とても追いつけない。まずは打楽器を知ることに徹しましょ。

 

それにしても、僕が加入したのが2016年だから、この初演時の砂紋の2014年はまだ加入前(砂の書の2017年の初演時のコンサートには乗っていなかった。)そんなに昔ではないかもしれないが、それでもメンバーの顔触れを見て歴史を感じる。音楽の1ピースのみならず、僕も歴史の1ピースとして、非力ながらも音楽を磨き続けなくてはならない。